愛の為にふたりで何をしたというの −−スプリンクラーから「復活LOVE」へ

2016年2月24日の48枚目のシングル「復活LOVE」が発売された。

作詞・竹内まりや、作曲・編曲・演奏(弦とガットギター以外)・プログラム山下達郎という濃いー布陣である。大野智言う所の「もう豪華すぎます」ってやつである。

山下達郎さんに嵐の曲を書いてもらいたいなあーと思った事がある。2012年の事。

私は元来嵐の曲は匿名的職人チームの作がいい派である。職人達が様々なメロディーやフレーズを持ち寄って、それらを繋ぎ合わせ切り取り、二曲三曲分のものを一曲に仕上げるキメラのような趣が嵐の曲の醍醐味だと思っている。大家、巨匠に作ってもらった曲はつぎはぎしておまけにラップを乗せたりなんかできない。

2012年に話を戻す。2012年10月31日に嵐11枚目のアルバムpopcornが発売された。表向きテーマはpopとは何か、である。私はこのアルバムのどこがpopなのか、彼らが考えるpopとはなにかが全く見えてこなかった。

おりしも震災後、無邪気に喜んでいた「国民的アイドル」の肩書きの重さがじわじわと身に堪え始めた頃。

popcornリリースが発表されたアラフェス2012も楽しかった。だがこれが彼らの考える「ファンが求めてる嵐コンサートの形」であれば行く先は見えた気がした(後日これは誤解であったことがわかる。当時アラフェスとは古いファンと嵐が『本当にやりたい事』を実現する為のコンサートだと思っていたが、どちらかというとアラフェスは各方面へのサービスの為のコンサート、であり、その後ツアーコンサートで嵐は古いファンも新しいファンも関係なくやりたい道へ突き進んで行った。popcornはアルバムとしては今も面白いと感じないがコンサートは最高に面白かった。以前とは全く違っていた。この2012年からのコンサートの変化がなければ私は嵐ファンを続けていなかったと思う)。そこに来て全く理解できないアルバムを聴いて私の嵐おたくモチベーションはものすごく下がっていた。

その時、popcornと一緒に店頭に大々的に並んでいたのが「山下達郎ベストOPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜」。

ああ、嵐もpopがどうとかこうとかブチあげてないで、黙って達郎さんに曲作ってもらいなよ…。

 と国民的popシンガーである事が命題であり続ける職人・山下達郎氏のベストを手に取り聴き始める。知ってる曲もあれば知らない曲もある。頭がアイドルおたく脳になってるので「どんな曲を嵐にやってほしいか、嵐が歌うpopてどんなものか」という方向性で聞く。脳を侵されているとはかくのごとく恐ろしい。

その時琴線に触れた曲が「スプリンクラー」だった。

所謂タツロー節ではないが大正琴なども使った印象的な冷たい音で、表参道駅の階段に雨が流れ込んでいく様子と心の中にどす暗い水が淀んでいく様が絵画的に歌われていた。そして雷の音まで入ってるのだ、嵐にぴったりじゃーん。愛への不信に満ちた男性視点の歌詞。表題の「愛の為に二人で何をしたというの」はこのスプリンクラーの一節である。それに続くフレーズが「僕は君の、おもちゃじゃない」

いやすごい歌詞なので検索して見てください。wikiも面白いです。

歌詞がとってもきつい男のものなので(矢野顕子氏が評するような弱気な男には当時の私には感じられなかった)嵐の曲じゃだめだね、大野ソロでまるではなから愛なんて他人事のように「僕は君の、おもちゃじゃない」となーんも心込めずに歌うと面白いよ。と偉そうに「この曲は嵐にやってほしい曲」と決めていたのだった。何様だって話ですねすみません。

 というわけでえーと、今年出た山下夫妻に作ってもらったシングル曲「復活LOVE」がわーいスプリンクラーみたいな世界観の曲だったよー、しかもアイドル嵐用に主人公は謝る男になっている!と、自己満な話がしたかった。

雨の中で去っていく彼女。だが山下達郎の男は許しを請うことはない。悪いのはお前だー。竹内まりやがそこを嵐に合わせて「ダメな僕を許して」の世界へと書き換えていく。いやあーたまりません。この表裏一体みたいな世界。ぜひ二曲の歌詞を並べてみていただきたい。

これが松本隆作詞によるKinKi Kidsの山下曲であったら、主人公は少年の高潔さを持って去った彼女を許すことはないだろう。たとえ自分が敗者となっても。エターナル。

しかし復活LOVEのしょぼくれアラサー(下手するとあらF略)男、ひたすら平身低頭エインジェル様の許しを請うばかりである。KinKiの山下曲は少年の純粋さのイデアとしてジャニーズJr.達のスタンダードとなり歌い継がれているがこの復活LOVEはどうだろうか。10代のジュニアの少年には歌えない世界ではないか。エロでもなんでも子供には無邪気に歌わせるジャニーズ。だがこの「中年男の情けなさ」をヒット曲にできるデビュー組ジャニーズがいただろうか。それが嵐だと、誰が今まで想像しただろうか。

嵐にはピカンチという年齢とともに展開するサブストーリー映画がある。その中で彼らは子持ちであったり別居中であったり会社潰したりとなかなか痛々しい中年になっている。復活LOVEはどちらかといえばそっち寄りの世界観だ。簡単に泣く男、簡単に帰ってくる女。きっとまた別れちゃうよと密やかに言われているこのカジュアルさ。まあでも人生そんな部分もあるさ。

「復活LOVE」提供の馴れ初めは、山下夫妻が2013年のLoveコンサートを鑑賞されたことから始まる。ちなみに乱暴に言ってLoveコンサートはバーレスクと人類愛をくっつけたようなコンサートである。そのコンサート後、山下氏が「嵐のLOVEなら俺にもイメージがあるな」等一言から始まった、要するにアテ書きである。しかも三年越し。

そして出てきたのは雨の中、逃げられちゃった逃げられちゃった逃げられちゃったよーな男。雨と涙は澄んだまま人生の曲がりくねった川へ流れるのか、あるいは都会の暗渠へと姿を隠し黒く地下で流れ続けるのか。

 山下達郎作曲・竹内まりや作詞ということで有り難くも山下氏のラジオ、コンサートで曲をかけエピソードを話していただき、山下夫妻のファンからの反響もツイッターで見かけられるようになった。まあ大体がたつろーさんにうたってほしいってものでしたけど!

山下達郎さんファンには通常盤をこそ聞いていただきたい(こんなブログ見てないだろうけど)通常盤こそプロジェクト嵐の山下達郎リスペクトに溢れているからだ。ということで、つづく。