Are You Happy? レビュー 1:Groove Groove Groove 重ねて Music

Are You Happy? は嵐が受け継いできたもう一つのジャニーズの財産、フォーリーブスからSMAPのブラックコンテンポラリー、アーバンソウル、ラテン・ブラスロックといった洋楽部分、特に嵐が得意とするDISCO-FUNKが全面的に打ち出されている。

また、たのきんトリオ、そしてジャニーズのみならずエレキ・ラテン歌謡といったかつては王道であったが現在のJ−POPでは懐メロやパロディでしか扱われないジャンルもアイドル歌謡として見事に昇華させた。

前作Japonismがとんちき日本を軸にしたジャニーズイズムへの原点回帰であるならこちらはそこから外れた、だがしかし嵐にとってコアな部分の原点を探ったアルバムである。

今回のアルバムではメンバーの選択によるソロの他に嵐にスーパーバイズドした曲(以下、監修曲と呼ぶ)があり、自分で歌う曲・嵐に歌って欲しい曲と、それぞれが2曲ずつ担当している。よって16曲(通常盤はボーナストラック含め17曲)中、タイアップ4曲を除き10曲に嵐メンバーが主体的に関わっているという非常にメンバーの好みを反映した作りになっている。

前二作DIGITALIAN、Japonismがコンセプチュアルに傾いた作品だったため今回は基本的に気持ち良いと感じる音を集めたそう。本来嵐のアルバムは強いテーマを設けていないのでこれは通常の状態に戻ったわけだ。だが今までは若い嵐メンバーを素材としてどう活かすか、外部の目でやっていたことを今回は大人になった嵐メンバーが嵐を監修するという一歩進んだ形態をとっている。

山下達郎竹内まりや夫妻による「復活LOVE」をはじめ完成されたシングルタイアップ曲、リードトラックと裏リードトラックとも言える2曲はグルーヴィーなファンク、その間に嵐メンバーのソロと監修曲がちりばめられさらに強力なサウンドと嵐の音楽志向を示したアルバムになった。

「復活LOVE」を聞いて嵐やるじゃんと思った方「愛を叫べ」を聞いて嵐懐かしい楽しいと思った方「Don't You Get It?」を聞いて「嵐がブルーノ・マーズみたいなファンクやってるぅー」と思った方、アルバムAre You Happy? を聞いて見て欲しい。

そしHow's it going?原理主義者の元or現嵐ファン(私もです)にとって、Are You Happy? はこれこそ嵐だよ!の出し惜しみなき総決算である。つまり現状最高作である。

 

さてここまで、外向きにべた褒め。

実際今までの嵐の作品で一番好きかもしれないというくらい気に入ってるアルバムだが、何がいいのかと聞かれるとどの曲が、あのフレーズが、と浮かんでこない。多分そこに通底している「音」が好みなのだ。逆に一曲一曲はよくてもアルバムとして苦手、という事もあり、そういう時はアルバム全体の音の傾向が苦手だったりバラバラに感じられる時だ。Are You Happy? は私にはとても計算された統一感のある音で作られたアルバムに感じる。このアルバムをどこかに持って行ってそのまま一枚かけっぱなしで場が持つ、というタイプの一枚。

何がいいのか。うまく説明できないので箇条書きにしてみた。全て主観なので最後に(だと私は思う)を加えて読んでください。

・ヴォーカルとそのディレクション、エディットの基本値が飛躍的に上がった。前作Japonismのイン・ザ・ルームについて発売時点のレビュー(こちら)

keibeee.hatenablog.com

で嵐のヴォーカルエディットが完成形に近づいた曲、と評したが本作ではそこを楽々超えた基本ラインが打ち出された。各メンバーの歌唱力、表現力の向上とその配置、アレンジに嵐の「声」で勝負する姿勢が強く伺える。

・漠然とした表現で申し訳ないが、音に対する演者、作り手の意思が一貫している。あるいは(DJ的な意味で)一貫させるようにしているように聞こえる。Twitterでフォローしている方が本作を「同じ音を共有して、目配せしながら遊ぶジャムセッションのよう」と評されていたがまさにぴったりの例えだと思った。このアルバムはそれぞれの自由意志に基づいた攻めの姿勢と楽曲の基本に戻るアプローチ両方が感じられるが、それも構成力とある程度の意思統一がある上でのことに感じる。音の基盤に意思があるので歌謡曲になろうがファンクになろうがひとつのグループ嵐の音としてバラバラに聞こえない。アイドルだからこそこんなめちゃくちゃなジャンルの曲を歌えることの強みを一貫性のある音が引き出している。

・曲の構成が比較的シンプル。嵐にありがちなイントロ、Aメロ、Bメロ、各自のソロ回し、Cメロ、大サビ、…ともりもりゴシック曲がない。構成が比較的単純な代わりに各パートでの音(声も含む)のヴァリエーションが非常に豊か。ゴシック曲が悪いわけではないが本作を貫く「グルーヴ感」にはこの単純さとその中にある豊かさが鍵になってるように思う。

・心地よい「繰り返し」がある。一点に向かって集約的に盛り上げていくのではなく短い印象的なフレーズを小気味よく繰り返すトランス的なノリが随所にある。また印象的な音がそのままで終わらずどこかでもう一度きちんと「聞かせて」くれる。

・とにかくグルーヴィー。上に挙げた点を簡単に言えばこれに尽きる。グルーヴを途切れさせる、ガクッとする要素をなるべく排している。ファンキーに始まったのにサビがアイドルポップになって失速したり、アイドルだからバラードで愛の歌を入れなきゃとか、かわいい歌も入れなきゃとか、サビは感動させなきゃとか、盛り上がりの泣かせのメロディが何小節も続いて冗長になるような部分がない。逆に言えば、アイドルらしいキャッチーさやキラキラした若々しさや感動を求める人には少々平板で物足りないのかもしれない。

 分析というほどのものでもない、こいつはこういうアルバムが好みなんだな、と思って読んでいただければ。(自分でも書いてて初めてわかったし)

あととにかく演奏と音質がいい。ここまでのヴォーカル基準値、音、グルーヴのサウンドプロダクトで仕上げてしまった以上、次からはさらなる上を目指すしかないだろう。

今作にたりないと感じる点を言えば、歌詞の面で耳と心に刺さる強いフレーズや情景を感じさせる描写が少ないように思う。音を優先したためにあえて耳慣れたフレーズを散りばめたり言葉の意味を読み取らせない選択だったのかもしれない。だがここになにかもうひとつ「うたごころ」を乗せた最強の楽曲を聴いてみたい。さらに未知なる分野への飛躍への予感が見える、やっぱりすごいアルバムだ。

 

01. Drive

松本潤監修曲。

車に乗り込みレディオ・オン。120bpmでゆっくりと滑り出す。歩く人達の顔が見える同じ速度。実にスタンダードでPOPなアーバン・シティ・ソウル。だがスタンダードをしっかりやれるって事が大事なんで、そこは嵐たち丁寧にソロをつなぎ歌っている。

間奏で入るストリングスが美しく、伴奏というよりカーラジオから流れてきた映画音楽で異次元に誘われるような構造に仕立てている事でこの曲がオールドなアーバン・ソウルから楽曲的にひねった「渋谷系」に、時代的に加速していくのを再現するようで面白い。

02. I seek

ここから本格的に加速。おしゃれだなーゴージャスだなーいい歌謡曲だなー。あれベースがシングルと違う?が第一印象。音源は変わらない?がベースとパーカッションの音がタイトに高音がカーン!と抜けるような音に変換してあるように感じる。clap音もクリアになっている?この事で曲に更なるうねりとハネが生まれて次のファンクへ繋ぐグルーヴが生まれていると思うのだが、どうか。

03. Ups and Downs

ぐるぐるサラウンドするハアハアも暑苦しいど正調ブラスファンク。こっちをリード曲にして欲しかったってくらいどストライク。でも分かりやすさとかあるんだろうね。リード曲でないからこそ、の泥臭い音なのかも。ストライクすぎるとあまり語る事ってないもんですね(笑)

途中で唐突にマイナーな泣きの大野ソロが入るが(大サビ?)上手いアイドル的アクセントとしてやり過ごしすぐに元のノリに切り替え、グルーヴを途切れさせない。本作はそこが徹底している。

04. 青春ブギ 

相葉雅紀監修曲。

近藤真彦ハイティーン・ブギ」のイントロを電子化したようなパーカッション音で始まる問題作。

出だしは80年代ヤンキー御用達のヴィーナス「キッスは目にして」(←ネタ元はザ・ピーナッツの情熱の花で、ユニゾン歌唱もあってイメージは時代的にこちらにより近い、全体的にフォーリーブスを思わせる)から近藤真彦調のちょいワルマイナーアイドル歌謡を思わせる曲調へ。日本の歌謡曲において「ブギ」が不良の代名詞となったのはいつからだろう、ダウンタウン・ブギウギ・バンドあたりだとはわかるのだが…。サビは美空ひばり真っ赤な太陽かアストロノウツの太陽の彼方にか。ひと時代回ってギザギザハートか。

しかし歌詞は不良ではなくストーカーおじさんが昔の少女漫画を実践しているような不気味さ(振り向いてくれるまであなたの心を不屈の魂でノックノックノックしちゃうのである)で、ユニゾンで力強く歌われ背後に轟くどーん、どーん、どんどんどんという大太鼓に狂気を感じる。

途中から太鼓が導くセイヤセイヤとよさこいが挿入され、聴く者に「ああ、一世風・・・・ね」という安心感をもたらすフックとなっているが、私としてはここはいらんので最後まで謎の狂ったレトロミクスチャーGSエレキ歌謡としてどーんどーんと大太鼓を背にアタック!アタック!アタック!と不穏たっぷりに駆け抜けてほしかった。

あとこの曲、歌下手がやったら悲惨だからね!嵐が歌上手いからできるんだからね!

05.Sunshine

櫻井翔ソロ曲。

光が溢れていくような開放感を持ったこのタイプの櫻井ソロ、真正面から明るく正しい事を歌える力強さはこの人の武器だと思う。正しい歌、そして端正な生音(ベースが井上陽水のバックで有名なベテラン美久月千晴氏など超安定メンバー)。端正なストリングス、端正なホーンセクション。優等生っぽくなりがちなこの曲だが前半RAP部分の小気味いいリズム、控えめだけど効いてるスラップベースやギターのカッティング(このカッティングが次の復活LOVEにつながっていく感じ)そして後半間奏では突然なぜかのEDMチューンに!円熟味のある演奏とEDMのコントラストが面白い。でもホーンは明るく降り注ぐ太陽光のようなまま、そして繰り返されるGood day it’s up to youの生トランスっぽい高揚感と、明るいノリを維持しながら変化に富んでいる大人無邪気な曲。

(2に続きます。。)